Vol.10 福山みきさん
(makumo)POST:22.05.25.Wed
背の高い草花と木々がそよぎ、広く開かれた窓から海風が流れ込むアトリエ。時間が経つのを忘れてしまいそうなほど優しい日差しの中、テキスタイルブランドmakumoの布は、ひとつひとつ手作業で作られています。
◇最小に最大の面白さを込めて
makumoはデザインから染付け、製品制作にいたるまですべてを手作業で行っているテキスタイルブランド。起ち上げのきっかけは、デザイナーの福山さんが以前働いていた古物商での日本の古い布たちとの出会いでした。
「ユニークな柄や色使いの中にわくわくが詰まっていて。他とは違うヘンテコな布たちにどんどん惹かれていきました。今とは違って少量ずつしか作れないからこそ出せる面白さですよね。」
趣味で布を収集するうち面白い古布と出会う機会が少なくなってきたと感じた福山さんは「それなら自分で作ってしまおう!」と、テキスタイルについて独学で学び布づくりを始めます。制作から販売まですべて一人で行っていましたが、結婚を機に旦那さまである新木さんとの協力体制に変わり、大きな布への染付や需要を見据えた新たな企画への挑戦も可能となりました。ファンが増えていくなかでも、機械に頼らず手捺染にこだわるのには理由があると言います。
「一度大きな企業さんから依頼を受けたことがあって、外注での大量生産も検討しました。でもそれだと最小ロットがあっていろんな面で制限がかかってしまう。それってたくさんのデザインや色を実験的に作っていきたいという想いとズレてしまうなあって。やっぱりmakumoは『自分たちでつくれる範囲でどれだけ楽しんでもらえるか』を追求したいと改めて二人で決めたんです。そのほうが結果的に多くのデザインで、いろいろな人に出会えるんじゃないかと思っています。」
◇「誰かに使ってもらう」という価値
makumoの染付は、部屋の端から端まで広がる大きな板の上に布を広げ、デザインごとに調合した色で型を重ね染めていく作業。その手間暇も含め、福山さんたちにとってはメリットなのだと言います。
「基本的に色柄やアイテムの形の注文を受けてオーダーメイドでアイテムをつくっているので、受注後に布を染めています。時間はかかるんですが、その分一つひとつ相手に合わせたアイテムを作ることができます。」
makumoの主役はあくまでも「手に取ってくれる人」だと言う福山さん。個性溢れる幅広いデザインの中でも、相手目線は大切にしているのだとか。
「私が自由に絵を描き、その中で夫が『企画に合うモノ・お客さまから求められているモノ』を客観的な視点で選んで。パターン化したのちサイズなどデザインすることで、商品として生み出されていきます。」
枠にとらわれない福山さんのデザインと相手視点に立った新木さんの企画力で生み出される、個性溢れる脇役たち。物に溢れた時代だからこそ、それは替えのきかない特別なモノとなります。
◇無理なく日常に溶け込めるアイテムたち
お客さまにとってmakumoはどのような存在になりたいかと尋ねると、「手軽なものでありたい」と即答する福山さん。
「以前はいろんな機能を付加してアイテムを作っていたこともあったんですが、今はなるべくシンプルで基本的なものを作るようにしています。機能や装飾が多いものだと、どうしても人を選ぶんですよね。奇を衒ったものではなく、誰でも手に取りやすく無理なく使えるようなものを作っています。」
アイテムとして誰もが手に取りやすいことで、makumoの個性は多くの人々の日常に違和感なく彩を添えていきます。
例え無名なものであっても、「いいな」と思われたものが受け継がれていく。だからこそmakumoという形だけにこだわらず、これからも本当に良いと思える物を作ることができればそれでいい、と福山さんは語ります。どこかの人生にそっと寄り添う脇役のような存在でありながらも、確かな存在感のあるユニークなアイテムたち。その唯一無二の個性は、これからも愛され続けていくのでしょう。