MoonStar

Vol.9 久原抄織さん
(Savon de Rin)
POST:22.04.21.Thu

重なり合った遠くの山々を背景に、小さな煙突が可愛らしい一軒の工房があります。ぬくもりを感じさせるウッドブラウンの扉を開くと、石鹸の香りがふわり。店主の久原さんはマスク越しでも伝わるあたたかな笑顔で迎え入れてくれました。

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◇素材との対話で生まれる、たった一つの石鹸たち

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Savon de Rinはスキンケア用品を製造・販売しているブランド。自宅横に構えられた工房で、久原さんひとりですべてを手作りされています。工房の扉を開け最初に目に留まるパステルカラーの石鹸たちも、一般的な市販の石鹸とは異なった方法で作られているのだとか。

市販の石鹸は、短時間で作れるようあらかじめオイルを化学的に分解しアルカリと反応させるのが一般的です。一方で久原さんの石鹸はオイルそのものとアルカリを反応させ、できるだけ素材を壊さないよう熱を最小限しか使いません。そのため1時間ほどゆっくりと混ぜ続ける必要があり、乾燥するにも1カ月ほどの時間がかかります。自然を生かして作られているからこそ、季節の湿度や温度、環境によって個性が出るのも大きな魅力です。

「素材自体が活きる製法なので、同じ仕入れ先・同じ精製度の油でも個性があるんです。例えば生る実に色の差があるように、自然由来だからこそ、ちょっとずつ違う。」

素材ひとつひとつの性格と向き合えることも、久原さんが一つずつ手作りを続ける理由の一つだと言います。

「ただ業としている以上、安定性と固定制は絶対に守らないといけないので、その範囲と自然らしさを照らし合わせながら基準をつくっています。」

製造者としての強い責任と信念と中で久原さんが伝える自然らしさの魅力・楽しさは、お客様にとっても世界でたった一つの商品として受け入れてもらっているようです。

◇ 暮らしと記憶に馴染む存在に

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現在のお客様には、癒しを求めている方や肌が弱い方が多いという久原さん。作っているのは化粧品なので効果を謳える範囲が狭いのだと前置きしつつ、作用自体だけではなく香り・接客などを含め心地よさを提供したいのだとか。実際にSavon de Rinでは販売だけではなく石鹸教室も行っており、体験を通じた価値を届けています。

「でも、お客様には『ここの石鹸じゃないと』とは思ってほしくないんです。世の中には優れたものが多くあるので、『この石鹸だけ』っていうのは傲慢すぎるかなって(笑)。でもふとした時にここの石鹸を思い出してもらえたら嬉しいです。その人の日常にそっと寄り添うような、気持ちが軽くなるようなアイテムの一つとして仲間入りさせてほしいなって思います。」

思い出と紐づくものだからこそ久原さんの作る石鹸は特別で、特別だからこそ、日常に自然と溶け込んでいくのです。

◇ありのままの巡り合わせを楽しむ

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久原さんはこの先も、自然な循環の中で工房を続けていきたいと語ります。

「以前使っていた人がふと思い出して、また使いたいと思ってくれて......ゆっくりとした循環が人付き合いの中で保てたらいいなって。なので、この仕事をずっと続ける!というよりか、ずっと続くといいなって。求めてくれるお客様がいるからこそ自分がいるので、逆に自分がお客様に求められるものを作ろうとしたらおかしくなる気がするんです。」

受け身は嫌なんですけどね(笑)、と微笑みながら話す久原さんですが、実はSavon de Rinの始まりも、自然な縁と巡り合わせからでした。Savon de Rinの意味は「りんの石鹸」。久原さんの娘りんちゃんの名前が入っています。もともとはどちらかと言えばスキンケア用品に興味が無かったという久原さん。「アトピーの娘さんでも安心して使える石鹸を作りたい」という想いから石鹸づくりをはじめました。最初は趣味でお友達に配っていたところから話題を呼び、業として販売することをめざしたそうです。さらにタイミング良く家を建てることとなり、工房を構えることができました。意図しない出会いすべてを尊重し、慈しむことができる久原さんだからこそ、この工房は生まれ、多くのお客様に愛され続けているのです。

Savon de Rinのこれまでも、これからも。思わぬ縁やタイミングすべてが少しずつ意味を持ち、かけがえのない価値として重ねられてきました。長い時間向き合い続けることで作られる心のこもった商品たちにも、久原さん自身からも、自然体でしか出会うことのできない心地よさが溢れています。

 

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