MoonStar

Vol.5 亀井奈々さん
(有頂天洋裁店)
POST:21.11.01.Mon

箪笥の奥にしまい込んでいた大切な着物。着られなくなってしまった思い出の洋服。使えないけれど捨てられない、誰かにとっての宝物が、亀井さんのもとに集まります。世界でたった一つの洋服や小物に生まれ変わるために。お客様一人ひとりの強い想いと向き合う亀井さんの姿勢から、永く使うことの魅力を紐解きます。

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◇想いを繋ぐ一品を

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もともとは自分で着るための服を趣味で作っていたという亀井さん。型のある服がおおよそ作れるようになった頃、製図からこだわって仕立ててみたいという気持ちで大分の服飾デザイナーに弟子入りをしました。そこで学んだオートクチュールの技法で、現在はお客様一人ひとりに合わせた服や小物を仕立てています。

実際に、お母さんが七五三の時に着ていた着物を子どもの七五三バックに仕立て直したり、昔買ったタイトスカートを上着に仕立て直したりと、依頼の内容は様々。あえて手間のかかるオーダーメイドの方法をとるのは、永く着ていただける服を作りたい、という想いによるものです。

「いかにたくさんの服を作るかではなく、いかに大事にしてもらえるモノを作るか、を大切にしています。オーダーメイドだと作る時点からお客様の想いを込められるので、永く使っていただける気がして。」

そんな想いも伝わり、貴重な洋服や着物を預けられることも多いのだとか。大切にされてきた生地だからこそ、はさみを入れる時には今でも緊張するのだと言います。その揺るがない想いと強い責任感で仕立てられた一品が、人から人へ、昔から今へと、想いを繋いでいきます。

 

◇心の中にまで寄り添う存在に

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亀井さんにとって服は外見を着飾るだけのものではなく、自分の内にあるものを外に向けて表現してくれるもの。そして逆に、着ている方に働きかけてくれるものなのだと言います。「例えば個性を開放できる服を着たらちょっと毎日が楽しくなったり。きちんとしたスーツを着たら背筋が伸びたり。そんな風に一人ひとりの日々を彩り、背中を押してあげられるような服を作りたいと思っています。」

依頼を受けてから出来上がった品を納めるまですべてを一人で行っていますが、一人ひとりの日々に寄り添えるよう、お客様のヒアリングをとくに大切にしています。どんな風に使いたいか、誰が使うか、によってもお客様に提案するモノは違うのだとか。亀井さんの考えの根本は、あくまでも永く手元に置いてもらいたいということ。「誰かにとっての一点モノを作ることで、自然と使い続けてもらえるような存在を作りたい」と語ります。

 

◇思い出と、人生と、ともに着る服

slow_factory_3.jpg消耗品としての服も数多くある中で、永く使っていくことの魅力を亀井さんに伺ってみました。

「この服を着ているときにこんな出来事があったな、とか。記念日にこの服を着ていたな、とか。永く使う服って、思い出や人生と一緒に着てもらえるものだと思っています。頂くオーダーメイドのご依頼でも、なにか大切な日に着ていた服を仕立て直したいとか、大切な人に貰った服を仕立て直したいとか。そういったエピソードを一緒にお伺いできることが多いです。もちろん仕立て直しだけではなく、普段使いとして自分の体形に合った服を新しくご依頼してくださる方もいますが、そういった方も含めてその後一人ひとりの思い出と一緒に永く着てもらえるような服を作りたいと思っています。」

 

一つのアルバムのように、着続けている服には物語や想いが少しずつ添えられていきます。

亀井さんがその手で一つずつ丁寧に作るのは、当たり前の日常も、特別な非日常も。どんな思い出も共に重ねていきたいと思えるような、そしてその重さに耐えられるような世界でたった一つの存在なのです。

 

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