Vol.1 樋口麻耶さん
( 漆と金継ぎ*さらは / 修復師 )POST:21.02.05.Fri
新しいモノがすぐに手に入るいまだからこそ、時間を重ねた品は本当にかけがえのないものです。
しかしどんなに大切にされてきたモノでも、ひび割れしたり、壊れてしまったり。
今回はそんな品を修復し、愛着、記憶、たくさんの想いを重ねる手助けをする、樋口麻耶さんにお話を伺ってみました。
誰かの時間を繋ぐ「金継ぎ」
「金継ぎ」は壊れた陶磁器やガラスの器を修復する日本の伝統的な技法です。細い筆で少しずつ何度も漆を塗り重ね、最後に金粉で装飾をすることで、ただ壊れたものを直すのではなく、割れ目や傷を生かしつつ時間を重ねるほどに味わい深くなっていくのが特徴です。幼い時からモノづくりが好きだったという樋口さん。生活に根ざしたモノがつくりたいと考え進学した漆芸科で、友人から器の修復を頼まれたことが修復師の道へ向かったきっかけだと言います。
「自分も含め漆を扱える人ができる『器の修復』という選択が、他の人にとっては特別な技術なんだ、とそこで気が付きました。」それから樋口さんは、自分自身の役割を『作る、売る、使う』の続きにある『直す』ことだと位置づけているのだとか。
物語に想いを馳せながら、ゆっくりと、丁寧に、少しずつ
流行りのコーヒーストアのマグカップから室町時代の骨董品まで、樋口さんが修復を依頼される器の歴史は様々。
しかしそのすべてに、大きさでは量ることのできない依頼者の想いやエピソードが込められているのだと言います。「このキャラクターのお茶碗は依頼者のお子さんが幼い時に使っていたモノで、15 年以上経ったいまでも山盛りにご飯を盛り付けて使い続けているそうです。」「これは依頼者が結婚のお祝いに頂いたモノで、高いものでもないし、いまでも同じものを買えるけれど、頂いた気持ちを大事にしたい。とのことで修復のご依頼をいただきました。」そう語りながら一つひとつを見つめる樋口さんの優しげな視線は、モノだけではなくその背景を慈しんでいるようでした。
ながく使うことの楽しさを感じてほしい
最近では金継ぎの認知が広がり、一般の方でも真鍮と樹脂を使って手軽に器の修復ができるようになってきました。
それでも樋口さんが手間のかかる漆を使用するのは、そのモノの「これから」にこだわっているから。依頼者との「これまで」に、さらに想いが重ねられるよう、時間をかけて修復をしていきます。他の人にとっては安価でどこにでもあるモノでも、依頼者にとってはどんなにお金をかけても同じものは手に入らない、世界でたった一つだけのモノ。
樋口さんが漆を塗り重ねることで、今後もその器は依頼者とともに時を重ねることができるのです。
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